07/04/30

ズルリ、と引き抜くと同時に前にある体が崩れた。
荒く息を吐きながら、くったりと横たわる。
普段なら崩れ落ちた相手に悪戯をし掛けてからかうのだが、
いつもと勝手が違うのでいささか不安になる。
覗き込むと、真っ赤な顔に虚ろな目がぽっかりと開いていた。
暗闇の中、濡れたそれと目が合うと、恥ずかしそうに顔を伏せられた。
まったくもって、勝手が違う。
こちらまで照れてしまいそうだ、と少し離れた場所にどっかりと座る。
そうして、濃度の高い酒を浴びるように呷った。
敷布の横に乱立したそれらを片っ端から引き寄せては流し込む。
酒には滅法強いが、流石に箍が外れてきたようだ。ふわり、と軽い酩酊感がある。
酔わなくてはやってられない。
いっとう強い酒を呷っていると、横の敷布に長い黒髪が垂れた。
次いで、奇人がどっかりと腰を下ろす。
どうやら、そちらも済んだらしい。
ちら、と目をやると、陽玉が景侍郎の横に伏していた。
こちらもまた、くったりと力の抜けた様子だ。
いつもと違って、その仕草がやけに初々しいのが憎らしい。
思わず奇人をじろり、と睨むと奇人もまたこちらを恨めしげに見ていた。

「随分と、楽しんでくれたようだな」

「お互い様だろ」

含むような物言いに、こちらも不機嫌な声音で混ぜっ返す。
どちらも了承済みのこととはいえど、あんなにも好さそうな顔をした情人を見ると、
恨み言のひとつでも言ってやらねば気が済まない。
奇人は長い髪の間からなおも恨みがましそうな目で睨んでいたが、やがてフイ、とそっぽを向いた。
そうして、小さな漆塗りの小箱から煙管を取り出すと、盛大に煙を吐いた。
何だか拗ねたような、友の幼い仕草に、まぁよっぽど惚れ込んだものだ、
と何処か物珍しいような呆れたような気持ちになる。
景侍郎とは今夜一度きりの付き合いでしかないのだが、
それだけでも、閨事ではえらく可愛らしいことが分かった。
陽玉のような誘い込む色気には乏しいのだが、こちらの愛撫に小さく悶えるのにはそそられた。
年上の男と云うのは分かっているのだがその様は妙にいじらしく、
奇人が惚れるのも、まぁ解らんでもなかった。
俺に相手の好さが解ったという事はこいつにも解ったんだろうなぁ、
と柄にもなく複雑な心持ちで再び陽玉を見た。
そうして、
俺は心の底から呆れかえった。
陽玉は、景侍郎と口づけを交わしていた。
相変わらず横たわりながらも、向かい合って、口づけていた。
横の奇人も煙管を口から離して、呆れかえった様子だったが、何も言わなかった。
その気持ちはようくわかる。
陽玉と景侍郎の口づけは未だ続いている。
浅く、上唇を噛んで、舌でなぞって、少し笑って、また深く重ねる。
情愛を伝えるというよりは、口づけ、という性行為を純粋に楽しんでいるようだった。
そのうち、どちらかの手が互いの其れを弄った。
奇人は硬直したようだったが、ふたりの笑い合う様子がいっそ無邪気であるのを認めると、
息を吐いて手近にあった長椅子の足に凭れた。
同様に、俺も背凭れを引き寄せて寛いだ。

ふたりの交歓は、獣のように潔く、童のように稚かった。
自分と情人が為す行為にはあり得ない類のものだった。
決して想い合う仲でないからこそ成り立つ、戯れといったところか。
要は猫のじゃれあいである。
そう思うとなんとなく邪魔する気も失せて、酒の肴にでもするか、と居直った。
俺がのんびりと酒瓶を空けているうちに、ふたりの距離は更に縮んだらしい。
しっとりと濡れた体を密着させ、互いの其れを握り込んでいた。
近すぎる距離に握った其れが触れ合うのか、腰が揺れていた。
その間も、唇を何度となく重ねては、相手の顎に垂れた唾液を舌で拭ってやっていた。
しばらく夢中で互いの其れを弄りあっていたが、不意に陽玉が景侍郎の薄い胸を抓った。
小さな悲鳴を上げた景侍郎だったが、すぐに意趣返しとばかりにやり返した。
同じく高い声を上げた陽玉は、すまなかったという風に景侍郎の頬に口づけた。
すると景侍郎も笑って、抓った乳首を優しく舌で舐ってやった。
擽ったそうに笑う玉はしばし楽しげに小さな頭を抱え込んでいたが、
思いついたように相手の体を跨ぎ、其れを口に含んだ。
景侍郎も驚いた風だったが、すぐに陽玉の腰を抱え込んでしゃぶってやった。
優しく笑い合う小さな声は消えて、代わりに湿った音が室内を満たした。
そうなるとなんだかいやに落ち着かない。
ふたりは、相手の其れを只管しゃぶっている。
不意に景侍郎のほっそりとした指が陽玉のよくほぐされた其処へ、つぷ、と入り込んだ。
大きく身を震わせた陽玉も、すぐに小さく腰を振ってそれに応えた。
腰を振られて、其れを口に含んだままの景侍郎は如何にも苦しそうだったが、
其れは細腰に似合わず、赤く太くなって陽玉の口を出入りしていた。
やがて陽玉も景侍郎の其処を弄りだし、互いに腰を振りながら喘いだ。
そうして、遂にふたりの腰が大きく震え出したとき、
俺は酒を放り出して、陽玉の腕を掴んだ。
そのまま引き上げて戸惑ったような相手を胸に抱え込み、口づけた。
他人の精液の味がしたが、構わずに舌を熱い其れに絡ませた。
陽玉は俺の背にまわした腕で、爪を立てた。
背中に熱い痛みを感じた。
それは、あのふたりの間にはなかった愛の仕草だった。
更に深く口づけてから、激情のままに細い体をひっくり返して後ろから犯した。
苦しげな声が聞こえたが、頓着せずに出し入れすると、いっそう酷く身を捩った。
あ、あ、あ、と高く小さな声が愛しい。
同じく荒い息遣いが聞こえると思ったら、奇人も景侍郎を胸に抱え込んで、深く繋がっていた。
大事に大事に抱いた腕に反して、容赦なく動くその様に、
余裕がねぇなと笑ったが、こちらも大差ないか、と白い背に唇を落とした。
反り返る身体を掴んで、阿呆みたいにただただ腰を押しつけた。

どれほど経ったのか。
先程までひっきりなしに聞こえてきた声が聞こえない、と下を見やると、
またあのふたりが口づけを交わしていた。


[ミルクセーキは口移しで]