07/02/19

容赦なく其処を踏まれ、悲鳴を上げた。
体の構造上、其処に大して痛みはないが、新品同様の硬いゴムが骨を圧迫して痛い。
相手もそれがわかったのか、爪先で抉るようにしてくる。
これには間違いなくひどい痛みを感じて、どうにか逃れようとがむしゃらに身を捩った。
その拍子に埃っぽい空気をめいっぱい吸い込んでしまい、激しく咽た。
蘇芳にとって地獄のような時間は長く続いたようで、アッサリと終わった。
相手は蘇芳の反応を一頻り楽しむと、動きを和らげたのである。
そうされると、今度は覚えのない感覚が其処に広がり、蘇芳はいたく動揺した。
普段は隠れている粒をしきりに刺激され、わけのわからない感覚に口がだらしなく開く。
これが快感なのかどうかも理解出来ぬまま弄られていると、不意に動きが止んだ。
下着に手を掛けられ、其処が外気に触れた。

「タヌキのくせに、濡らしてやがる」

顔がカッ、と熱を帯びたのがわかった。
清雅は大して気にした様子も見せずに、濡れた下着を隅に放り投げた。
グッバイ、水色ストライプ。
気に入っていたとしても、上履きであれだけ踏まれればもう使えやしないだろう。
蘇芳は息を荒げながら清雅の整った顔を見る。
どうしてこんなことになったのかサッパリわからない。
朝食を取らなかったせいか、体育館の冷たい床のせいか、貧血を起こした。
それでも我慢出来る範囲だったので黙っていると、清雅が教師に保健室に連れて行くと言い出したのだ。
同学年の者たちがみな意味深な目でこちらを伺っていたのが気まずかった。
卒業を控えて、大して親しくもない筈の男女が連れ立っていたら当然だけれども。
そして実は蘇芳も清雅に手を取られて、ドギマギしていた。
いつもつるんでいる男連中ならともかく、まともに話したことすらない清雅にわざわざ保健室まで送られているのだ。
なんだか少女マンガのワンシーンみたいだなぁ、とくすぐったかった。
けれど実際は用具倉庫に放り込まれ、ベルトで両手を縛られていたぶられている。
もとから大して働かない頭が余計グワングワン回っている。

「セーガ、くん、一体なに考え

バッ、と乱暴に手のひらで口を塞がれ目を白黒させる暇もなく、
激痛が走った。
んんんん、と洩れる声を手のひらが強く塞ぐが、それを幸いに手のひらを噛んだ。
めいっぱい噛まれて肉が裂けたのを清雅は感じたが、叫び声を聞かれるよりはマシだった。
もう片方の手で太ももを抱え込み、更に奥まで沈める。
下にいる蘇芳は泣きながら、ひたすらに手のひらを噛んで波を堪えた。
血の臭いがする。
やっと全部沈み、蘇芳はゼイゼイと大きく胸を上下させた。開いた口から涎と清雅の血が伝う。
用具のマットや自分のスカートは酷いことになっているだろう。
ぼやけた視界で、清雅が驚いた顔をしているのがわかる。
処女だったことがそんなに意外だったのだろうか。
確かに、派手で遊び好きの連中とつるんではいたが、そっちの方は親父を泣かさないため大事に守っていたのだ。
それも今日でパーだが。
まさか初体験がこんな小汚い場所だとは夢にも思わなかった。相手がこんな鬼畜だとも。
清雅が動き出した。
両手で足を抱え込み、深く沈めたまま激しく揺さぶる。
走る激痛に、本気で死んでしまいたいと思った。


どれほど時間が経ったのか、微かに聞こえてくる歌声に意識が浮上した。

あおぉぉげば、とおぉぉとし、

練習のプログラムから考えて、まだ終業のベルまでだいぶ時間はある。
自分を犯して、ベルの鳴る前に保健室に連れて行くなりするつもりだったのだろうか。
随分な計画犯である。
飽きもせず揺さぶる清雅の顔を見やると、うっすらと汗が滲んでいた。
整った顔が崩れておかしかったが、清雅でさえそうなのだから自分はもはや見れたものではないだろう。
窓から差し込む、晩冬のほの明るい日差しが清雅の顔を染める。
熱に浮かされた顔は甘く、産毛は金色に光っていた。


清雅はこの春から、東京の、それも全国でも指折りの進学校に入学する。
推薦でアッサリ難関校に通った清雅は、同級生たちの勉強を直前まで見てやっていた。
仲間たちに微笑む清雅の柔らかい微笑みに、蘇芳はここまで世界の違う人間もいるもんだなぁ、と感心したものである。
その清雅が、なんで。
頭の悪い同級生を犯して。それがバレたらこの先の人生滅茶苦茶だろう。
何を考えているのか。

合唱が終って、高らかな清い声が聞こえる。
わたしたちは、そつぎょうします、そつぎょうします、
卒業だって。
そうか、自分たちは卒業するのだ。
それで進学したり働いたり全然別の人生を送るわけだ。
今までの生活を、全部過去にして。
それが節目というものかもしれないけど、どうにも感傷的になって堪らない。
卒業するんだ。
案外この男も、そんなことを思ってこんな突拍子もないことをしでかしたのかもしれない。
過去にするのは寂しくて、
全部を過去にしたくって。

一度中で達したので動きは最初よりスムーズだ。
限界が近いのか、清雅の顔が歪み、動きがますます荒くなる。
歌声も、痛みも、卑猥な音も、互いの息遣いも、柔らかい光に支配され。何処か遠い。
そんな曖昧な輪郭の中で、清雅の鼻先に伝った汗だけが、リアルだった。

もしも、その粒が甘かったのなら。

この恨みは忘れて。
全部過去の事にして。
それで。
お前のこと、
忘れないでいてやる。




ぽたり、と奇跡のようなひとしずく。

口唇に落ちたそれはやはり塩辛く。
ひび割れた傷に痛く、疼く熱に甘かった。


[さよならをおしえて]