07/03/12

犬というのは従順で賢くていい動物だ。
今日、絳攸がそのように褒めていた。
朝廷にフラリと迷い込んだ犬だったけれども、それは素晴らしい体格の犬であり、
はじめは主上が拾ってきたのではないか、とやきもきしていた絳攸もその堂々たる風格にそう洩らしたのだった。
そうだね、犬はいい動物だね。
けれども私はどうしても彼らが好きになれない。
それこそ従順で人間の言うことをよく聞く犬であるほど、気味が悪くなる。
絳攸の言葉でその理由を思い出した。
十代の頃の話なのだけれどね、
兄たちが、閨に犬を連れてきたことがあったのだ。


「舐めなさい」

そう言われてキョトン、と兄たちの顔を見た。
兄たちは一様に微笑んで私の一挙一動を見守っているようだった。
私は戸惑った。
別に、其れを舐めるという動作は兄たちを相手に慣れたものだったのだけれども、
私の前で其れを晒して待ち構えているのは、兄たちではないのだ。

「楸瑛、早くしなさい」

おろおろと戸惑っていると、焦れたように相手は、オンッとくぐもった雄たけびを上げた。
その勇ましい声に私はビクリと怯えた。
私の目の前で、寝台に鎮座しているのは、それは大きな犬だった。

「ほら、怒ってしまったじゃないか」

犬の首輪から伸びた紐を玩びながら兄が笑う。
しかし私は笑うどころではなかった。
行儀よく座る犬は恐ろしく巨大で、目はギラギラと光っていた。
口や足には布が巻かれていたが、その下には鋭い牙や爪があるのだと容易に察せられた。
そしてなにより恐ろしかったのは、犬の大きな其れだった。
既に勃起した其れは赤く腫れて、ピクリピクリと震えていた。
犬は発情していた。
嫌でも目に入る其れに、ひどい悪寒を感じて思わず目を逸らした。

「この犬はね、神様の使いと呼ばれる神聖な犬なんだよ」

私の縋るような視線を感じてか、兄の一人が近づいてきて私の頭を撫でた。

「そんな犬のオチンチンを舐められるんだよ。光栄に思わなきゃ」

どうやっても無駄だと悟った私は、小刻みに震えながら、這いつくばった。
そうして、其れに顔を近づけた。
きつい体液の臭いと獣臭に、恐ろしさがこみあげ、涙が零れた。
けれど舐めるまで許されないことはわかっていたから、私は鼻をグスグスいわせながら、舌を這わせた。
瞬間、舌の上で其れがピクリと震えて、吐き気がした。
暗い室内は私の舐める音と犬の荒い息遣いに満たされた。
兄たちが何事か話しているようだったが、吐き気を堪えるのに必死で何も聞こえなかった。
犬の其れは人間の其れと違って、凹凸がなく、ひどくスムーズに口に入り込んでくる。
懸命に舌を使うが、なかなか達さず、嫌な汗が体中から溢れた。
犬が腰を押しつけ始め、どうしても飲み込むことに抵抗を覚えた唾液や体液が卑猥な音を立てて零れ落ちる。
それらと油汗がごちゃ混ぜになって、顔がどろどろしている。
拭いたくても、犬の体液で汚れた手ではどうすることも出来ずにいると、不意に顔を掬われた。
兄はにっこりと微笑むと、私の頭を抱きしめて、顔中に口づけの雨を降らせた。
あ然としていると、他の兄たちにも同じように顔中を唇で愛撫され、頭を撫でられた。

「楸瑛は可愛いなぁ、そうやって顔をグチャグチャにしてるときの楸瑛が一番可愛いよ」

なんだかよく理解できないことを言いながら兄たちは口々に可愛いを連呼し、私を撫でた。
そのまま後ろから抱えられ、覆い被さるように口づけされる。
優しい口づけにうっとりとしているうちに、前から足を大きく広げさせられ、其処に指を入れられた。
同時に、其れにも愛撫が施され、ゆるゆると体が開いてゆく。
いつも通りに兄たち自身に愛されて、その体温に安心し、其れがじんじんと熱くなってくる。

「兄上、」

どうにも我慢出来なくなり、甘ったるい声を洩らすと、兄たちは優しく微笑んだ。

「いじわるしてごめんね、すぐに楸瑛の欲しいものをあげるからね」

そう言って私の体をうつ伏せにさせると、またゆっくりと髪を撫でてくれた。
その手は頭から首に、背筋を辿り、其処にすんなりと入った。
優しく体をほぐされて、四つん這いで喘いでいるとまるで自身も犬になったかのように思える。
それはひどく自由な発想だったが、
不意に、嫌な予感がした。
先程まで、膨らんだ其れを所在無さげにしていた犬が見当たらない。
ゾッとして前に逃げようとすると兄たちに容赦なく押さえつけられた。

「逃げちゃ、だめだよ」

顔を舐められ、ゆるゆると悪寒が背筋を這い上がってくる。腰に、痛みが走る。
布に巻かれていてもわかる、犬の爪の感触。
ハッ、ハッ、とせわしない息遣いが背後に、ある。巨大な何かに覆い被さられる。
あまりの恐怖に寝台の上掛けをぎゅう、と掴む。
ズズ、と入ってくる感覚に叫びそうになった。
大きな其れは小刻みに挿入を繰り返しながら、徐々に奥深くまで侵入してくる。
あ、あ、と泣いているみたいな声が出た。
全部収まる頃には、体を支えきれなくなり、ついに地にぐったりと伏した。
同時に其れがスポン、と抜けて思わず大きな声を上げてしまった。
兄たちはそれに喜んでますます犬をけしかけた。
ガクガク揺さぶられて、頭の中が乱れてゆく。
どうにか思考を止めるのは突き出した腰に立てられた爪の痛みなんだけれども、それももはや感じなくなってきた。
それこそ犬のようにあうあう喚いていると、兄たちの愉快そうな話し声が聞こえた。

「一頭でこの乱れようなら、三頭ならどうなるのだろうな」
「誰の犬が一番早くイかせられるか賭けないか」
「一度に三頭の相手をさせて奉仕させるのも面白いな」

なんて物騒な。とんでもない。
あまりの恐ろしさに最後の力を振り絞って、なんとか兄たちの方に顔を向けた。
兄たちが私の無様な顔を殊のほか気に入っていることなど、すっかり頭から消し飛んでいた。

「…兄、上、」

そう言い終わるかどうかも定かでないうちに、開いた口に思いきり突っ込まれた。
誰の其れかもわからない。
いきなりのことに口をフガフガさせていると、後ろの異物が抜かれ、代わりに慣れた兄の其れが押し込まれた。
口に含むには大きすぎる其れに苦しんでいるにも関わらず、後ろの兄は容赦なく突いてくる。
がが、だかなんだか妙な音が口から洩れて、ついでに開きっぱなしの口から涎がぼたぼた零れる。
兄の赤黒い其れがぬるぬると唾液で光って異様である。
しかしそれよりも、私の顔の方が犬に突かれていたときに溢れた涙や鼻水と相まって、とんでもなく醜悪だろう。
そう羞恥心を覚えるのに反して私の其れは熱くなってゆき、あまりの惨めさにまた涙を零した。
しかし突然、熱くなった其れを強く握られて悲鳴を上げた。
ヒィヒィ泣きながら見上げると、最後の一人が笑いながら指の間に其れを擦りつけてきた。
指の間どころか耳の穴や脇の間に擦りつけながら笑うその奇行ぶりに、最後の一人は雪兄上だとわかった。
そのうち他の兄たちも声を上げて笑い出し、私の首や背や腹や其れを好き勝手に弄り始めた。
体液で濡れた手に弄られて、私は堪らなくなって身を捩って悶えた。
横では、放り出された犬が家具に己の其れを、腰を大仰に振って擦りつけていた。
添えられた手に熱い其れを必死で擦りつけ涎を垂らしながら、それをぼんやり眺めていた。
やがて意識を飛ばしたが、それで勘弁してくれるような兄たちでもなく、その後も散々な目に遭った。

そうして犬に対して異常な恐れをなすようになった私は、藍州から逃げ出したものだった。
兄たちが、各々にそっくりな犬を連れてこないうちにね。
お楽しみを台無しにされて兄たちはそれは立腹していたようだけれど、私が意地でも藍州に戻らないのを悟ると、しぶしぶ犬を手放した。
当主の犬から傍系筋の飼い犬に格下げされた犬だけれども、
変な薬を盛られて腰を振るよりは、雌犬とのんびり家庭を作る方が随分幸せだろう。


そういうわけで、私は犬が苦手だ。
大きい犬を見ると、背後にのしかかられた記憶が甦るために特に苦手だ。
小さな犬でも、こんななりで雌犬にのしかかかるのだろうと思い、なんとも言えない気分になる。
犬相手にそのようなことまで考える自分が情けないやら、けれどどうしようもないやら。
とにかく、犬は苦手だ。
まぁ、それだけの話なんだけれどね。


[思い出すことなど]