07/02/27

追い詰められる。
衣越しの背に、壁の冷たさを感じる。
追い詰められる。
楸瑛の指を口に含む、龍蓮のその舌の紅さに。
くらりと眩暈がした。
龍蓮はそんな楸瑛を見透かしたかのように、指を優しく舐った。
舌は柔らかく指を包み、ゆったりとした動きで愛撫する。
温かく濡れたそれに包まれて全身の血液が指先に集まったようだった。
まるで紅い蛞蝓のように、指先を巻き込むように這う。
舌の這った軌跡がぬめるように光る。
その動きに目が
離せない、

楸瑛は龍蓮の頭やら腕やらを見もせずに押しやって、顔を背けた。
そうして全てをそのままに、逃げるように部屋から出て行った。
いや、実際はその通り、逃げていた。
己の指をなぶる、温かな舌を口に含んでしまいたい衝動から。
龍蓮がしたように、口に含んで嬲ってしまいたい、静かな衝撃から。
紅潮する顔を隠すように手で覆い、壁にズルズルと凭れ掛かる。

相手は弟だ

楸瑛は、兄弟から与えられたことはあっても、自分から与えたことはなかった。
自分のはただの兄弟愛であった。
このような、性衝動を抱く筈はなかったから、

どうするのだ

楸瑛は熱くなりゆく頬を必死で押さえたが、体は力が抜けて、
やがて地面にそのまま横たわった。



[だからもう口にしたりしないで]