07/06/??

私は洗い清めた貝を、小物入れの中に収めた。
あの、大ぶりのの貝殻の横に。
ついに力が抜けて、くったりと椅子に身を預ける。
この貝を土の中から見つけ出したとき、あの苦しみは消えた筈だったが、
その暫し後に、またぶり返したのだった。
途方もない胸の痛みに、明け方まで庭をさ迷った。
その痛みの意味が解らずにフラフラとさ迷ったのだが、それに疲れて戻ってくると、ピタリと止んだ。
拾った貝をあの小物入れに入れた途端に、ピタリと。
そして痛みが止むばかりか、胸にどうしようもない安堵が湧き上がり、涙となって滲んだ。
はたはたと零れる涙に、ようやく私は悟った。
この貝たちは寂しかったのだ。
恋しかったのだ。
兄上から頂いた貝はひとつきりではなかった。
青いあおい天鵝絨の布に包まれた、桜色の貝たち。
まるで砂糖菓子のようにゆるく積まれ、輝いていた。
遠い海からこの王宮まで、
ずっとずっと一緒であったのに切り離されて、堪らなかったのだ。

涙を拭うと、新たに拾った貝殻をそっと手にとって、水差しの水で洗ってやった。
貝たちはまた引き離されてしまったのだが、もう寂しがらなかった。
私を信用しているのか、再び触れ合えることを理解しているからだろうか。
綺麗に清めてやった貝を小箱に戻すときには、すっかり朝になっていた。
卓子に頬杖をついて、寄り添うふたつの貝を眺める。
新しい貝は小さく、丸みを帯びた三角形に、横縞が入っている。
そして先の巻貝と同じ、柔らかい桜色だった。
差し込む朝の光を受けて、より甘やかな印象だった。

ひっそりと、ただただ見つめる。飽きもせずに。
朝の不可思議な静けさのなか、瞼がとろりと下りてくるのを感じた。