07/01/26

「お前のこと、好きだよ」

ふと、思った言葉が口から飛び出した。
うわー素面で言っちゃうかーコレ、なんて慌てて隣を歩く清雅を見たら、信じらんねぇって顔で固まってた。

清雅は俺が無駄口を叩くのが大嫌いで、それは余計な言葉を言う前に俺の口を塞ぐほどだった。
もし間に合わなくて俺がポロッと何か拙いことを言おうものなら、容赦なく殴った。
そのうえ、清雅はこーゆー好きとか愛とかっつー単語が大嫌いだから、俺の言葉はひどく癇に障っただろう。
案の定、清雅は天下の往来だというのに、バッと腕を振り上げた。
条件反射で思わず身構えたが、何故か拳は降ってこない。
そろっと見てみると、清雅はその格好のまま動けないでいた。
顔はグシャグシャに歪んでいた。


あーごめんな、そんなに嫌だったんだ。
お前がさ、俺が無駄口叩くの嫌いなのってさ、俺の言葉に傷つくのが嫌だからなんだって思ってたんだ。
俺が何かポロッと零す度に、お前の目がどっかを睨みつけて動かないの、知ってたから。
でも俺、俺の言葉がお前をそんなに傷つけるんなら、喜ばすことも出来んじゃないかって思ったんだ。
すげー勘違いだったな、ごめんな。
ホント、ごめん。


いつだって自信に満ちた清雅のそんな顔はあんまりにも哀れで、俺はひたすら謝った。
ちょっと、かなり、言い訳みたいに謝った。
すると清雅はもっと痛そうな顔して「謝るなよ」と、ぼそっと言った。
そのまんま、顔を伏せてうずくまった。
道の真ん中で、駄々をこねる子供みたいに蹲った清雅とひたすらうろたえる俺はさぞかし可笑しかったんだろう。
おっちゃんやらおばちゃんやらおねーさんおにーさん家族連れやらがジロジロ俺たちを眺めていた。

そんな状況でも俺は。
「謝るなよ」と言った清雅のつむじに口づけするか、そのまま抱きしめるか。
どちらを先に実行しようか、真剣に考えていた。


[或いは狂気の沙汰]