07/05/01

握り込むと、先程まで苦悶に歪んでいた顔が緩んだ。
享楽に弱い体はすぐに蕩け、拒むようだった其処も和らいだ。
そのまま上下に扱いてやると、あ、あ、と忙しなく声を上げながら腰を振る。
口はだらしなく開き、敷布に涎が零れ落ちて大きな染みをつくる。
その染みに頬をつけたまま大きく口を開け放す様は、本物の阿呆だった。
先に軽く触れ、円を描くようにしてやると、
腰が細かく痙攣し、其処は誘うように蠢いた。
ここまで堕ちきってもまだ堕ちることが出来る。
人間とは大したものだ。
知らず、嘲笑が鼻から洩れた。
このようにブルブル震えていて、
あの小さな溜め息を聴き取ることが出来たかは知らない。
タヌキは敷布に埋めた顔をほんの少し動かして、こちらを見た。
薄いうすい金色の瞳が、濡れるように光っていた。

腰が震えた。
俺は手にした其れを、ぎゅう、と握った。
途端に、もがいて逃げようとする体を引き摺るようにして跨った。
こんな小汚い男に性に似た衝動を感じたのが酷く口惜しい。
大体、其れに触れるのは弄ると其処の締りが好くなるからである。
でなければ、誰が触るものか。
冗談じゃない、そう思いながら腹立ち紛れに腰をぶつける様に突き上げた。
下からは、苦痛とは別種の悲鳴が上がった。


[ロロロロマンチック]




07/05/14

横顔の唇が目に入った。
ふと、振り返った先に頬杖をついたタヌキがいる。
その唇が、目に入った。
締まりのない口はうっすらと開いていた。
いや、まだ上唇と下唇は辛うじて触れ合っている。
しかしそれも重力に引かれるままに、下唇はゆるゆると上唇から剥がれ落ちた。
色のない唇は乾き、薄皮が少し捲くれている。
それはなおも開きゆき、ついに歯が覗いた。
荒れた唇に反して、酷く健康そうな様子だった。
白く、唾液に濡れていた。
ちらと見えていたそれは、小さな歯の先まで露わにされてゆく。
もう少し、
あと少しで、きっと、きっと赤い赤い、

チチチ、

鋭い鳥の声に、目の前の体はビクリと震えた。
ようやっと己の職分を思い出したかのように、あたふたと卓子の本を手にした。
そうして正面に向き直った唇は、もはやしっかりと閉ざされていた。
もう少しで。
俺は何処か落胆した心持ちで、踵を返したのだった。



[この胸にトキメキを頼むよ]




07/05/15

「さっさと脱げ」

そう言われて、ノロノロと服を脱ぐ。
上衣を床に落としたところで、頬を張られた。
ぐらり、よろけた腹に蹴りが入った。
これには堪らず、呻いて倒れると、続けざまに腹や胸を何度も蹴られた。
蹴られる度に、床に擦れる耳が熱い。
余りのことにぶちまけそうになり、
反射的に口を押さえると、乱暴な足が退いた。
派手に噎せて、そうするとますます押し寄せる波を、
ゼエゼエ呼吸を繰り返して、なんとか鎮める。
ようやっと治まって、縮めた体がだらりと弛緩した。
途端、肩を蹴られて仰向けにされる。
裸の胸に、清雅の沓が埋まった。
ミシリ、
骨の軋む音が聞こえた。
息の止まって動けない俺は、
沓が胸から鎖骨、喉、顎へと上ってくるのを、
とてもゆっくりと感じていた。
爪先で顎をとられる。
揺れる視界で、清雅と目が合った気がした。
次の瞬間、こめかみを首が外れるんじゃないかと思う程に蹴り上げられ、
それからは何も考えられなくなった。

気がつくと、薄暗い室内にぼんやりと寝転んでいた。
一瞬遅れで体が軋む。
初めのうちはそれがなんなのかよく理解出来なかったけれど、
体中に満ち満ちた熱が痛みであると、
少ししてから気がついた。
どうにも頭がはっきりしないまま天井を見ていると、
ささやかな冷笑が降ってきた。

「なに、イッてんだよ」

何を言われているかも解らないままに身を起こそうとすると、
全身にひどい痛みが走って、知らず、横に転がった。
その拍子に、ぬるり、と太ももに何かが流れた。
目だけで見やると、白い一筋。

悪意はただただ、零れるように、降り注いでは降りそそぐ、
冷たい微笑は倦んで熱い傷に心地よかった。
不意に、カサカサ、と乾いた音が聞こえ、
それが自分の笑い声だと、しばらくしてから気がついた。


[二人は罪に沈む途中]