07/02/14

「お前って本当に性格悪いよな〜、っつかそんな性格だったのかよ」

突然何の脈絡もなく洩らされた言葉の主をギッ、と睨みつける。

「うるさい、人の性格にケチつけるな」
「だってよ、そりゃ昔からそっけなかったけど、あの頃は喋らなかったからよ〜」

静蘭はひどく気分を害したが、自分の性格が決して誇れるようなものでない自覚はあるのでむぅ、と黙り込んだ。
他の話題であれば十倍の毒舌で応じるものだが、日の下にいるのが似合うような性格の男に言われると、言い返すのが難しい。
苦虫を噛み潰したような静蘭の顔を燕青の指が軽く弾いた。

「つってもよ、昔の人形みたいなお前よりずっといいけどよ」

その言葉に静蘭は微かに息を呑んだ。
燕青は前を向いたままなんでもないように続ける。

「顔色も変えなきゃ喋りもしない人形より、今の方がずっと好きだぜ」

そう言ってにっと、笑った。
ふてぶてしい笑顔で、そのくせ目だけはどこか揺れて。
この言葉を告げるためにわざわざ自分を怒らせたのかと思うと、なんともくすぐったく。
はにかみを隠そうとするその貌に、静蘭も小さく笑った。


[君に笑顔をもう一度]


07/02/14

燕青は月明かりに染まる横顔をそっと、指の背でなぞった。
美しい造形は静謐な光に、より艶を増していた。
そのくせ薄く開いた口唇はいやに幼げで、燕青は知らずに目を細めた。
あの頃は、寝顔にすら表情がなかった。
いかに造作が良くてもその表情は幽鬼のようで、正直、気味の悪い思いを抱いたこともある。
そんなこの男が変わったのが、嬉しい。

燕青の中には、月明かりの下、ぽつんと佇む少年がいる。
それは春の日も夏の日も秋の日も冬の日も、何かにつけ心の表面に現れた。
別に毎日という訳ではなかったし、州牧になって忙しくなってからはそれも格段に減った。
けれど、思い出したように少年は燕青の脳裏を過ぎった。
静蘭は変わった。
そして燕青の中の少年を変えた。
互いにまつわる悲惨な過去の記憶が消えたわけではない。
この過去があったから出会えたんだよ、と笑えるほど風化したわけでもない。
けれど、燕青の中の少年は月明かりの下で、たまに、微かな笑みを浮かべる。
それは静蘭が燕青に向けるわかりにくい微笑みと同じものだった。

「おっかしいなぁ、確かに友情の筈だったんだけどなぁ」

照れ隠しに頬を撫ぜると、静蘭が心地よさそうに吐息を零した。
それに思わず頬が緩んでしまう。

「ま、今も昔も、お前が笑ってくれりゃいいんだけどな」

掛け布を肩まで引っ張り上げ、静蘭に頬を寄せるようにして身を横たえる。
静かな月明かりの中、目を閉じると。
少年が小さく手を振る姿が瞼に浮かんだ。


[スロウ、フェロウ、メロウ]