07/06/02

横たわる白い頬を、じっと見下ろしていた。
看護のためか監視のためかは知らないが、
どちらにせよ、ここまで重傷を負った奴相手にそんなもの必要ないのではないか。
白い男は、昏々と眠っている。
呻きもしなければ、ぴくりとも動かない。
外は雪が降り続ける。
先程までの気がふれたような嵐もおさまり、今はただしんしんと降り積もる。
時々、自分の呼吸を意識するだけの、途方もない静寂。

(死んでんじゃないか)

あまりのことに、ふと思う。
それがわかったのか、弛緩した四肢が、
ビクリと一瞬、痙攣した。
そうしてまた微かなかすかな呼吸に戻った。

いきなりのことに驚いたが、それと同時にひどく安堵した。
誰だって、重傷を負った人間が目の前に居れば、心配せずには居られないだろう。
ホッと胸を撫で下ろして一拍の後、本当にそうか、と自問する。
こいつはこれから、どうなるのだろう。
どうなる、だなんて。
中々端正な顔立ちをしている。
剣の腕も並々ならぬと聞いている。
重傷の、足手纏いの、他人を、看病させている。
それで充分だ。
こいつは仲間になるだろう。
それが本人の意思でなくとも、殺刃族となるならば、

(こいつを、殺すのか、

依頼は殺刃族の殲滅だ。
そうでなくとも、殺刃族に縁のある者を生かしておける自信がない。
あれから時が経った。
けれども、己の中の炎は消えない。
晩冬の凍えるような風に晒され、激しく燃え上がる。
青いあおい、復讐の、

ふと、痩せた頬をまともに見て、思わず膝を抱えた。
堪らなかった。
どうせ殺すのであれば、看病なぞしたくなかった。
弱っているところを見たくなかった、闇に引き摺り込まれる過程を見たくもなかった。
生きろと、願いたくもなかった。
細く入り込む隙間風に、ともし火が揺れる。
再びの、嵐が始まる。
外の風はますます勢いを増し、轟々と吹き荒れる。
その音と共に、己の殺意がいや増すのを感じた。
鬼になる。

強く、膝を抱える。
成長途中の体は腕の中から大きくはみ出すのに、それでもぐっ、と縮こまった。
こいつが、嫌な奴だったらいい。
そんな子供染みたことを、ひと晩中考えていた。



[雪嵐とともに来たる]