07/06/??

どうにも寝苦しく、再びの寝返りを打った。
幾度も繰り返される寝返りに、侍官が戸惑ったように身じろぐ。
なんでもない、と告げて柔らかい敷布に顔を埋めるが、一向に眠れる気がしない。
暗闇の中で、私はふと、月の光が懐かしくなった。

幼い私にとって、それは馴染みのものであった。
庭園に放り出された夜、蔵に押し込められた夜、
月の光はいつだって私を照らしていた。
冴え冴えとした光は排他的で、
いつまでたっても親しみを覚えることは出来なかったが、
闇を照らすその光は、とても近しい存在だった。
王となった今、その光を浴びることはない。
唯一の王位継承者として大事に、大事に守られているからには。
こうして、うつ伏せで眠っていると云う事実は、昔となんら変わりはしないのに。
窮屈には感じなかった。
ただ、今現在の己の身の上が不思議であった。

そのままぼんやりと、壁に目をやる。
私の前には闇しかないのに、
月の光は私でなく床や家具を照らしていることだろう。
そう思うと、妙に落ち着かなくなり、私は身を起こして室を見た。
案の定、青白い光が窓の形に床を照らしている。
侍官を跨ぎ、床に降り立った。
そのまま窓に近づき、光を吸い込むようにスゥ、と深呼吸をしたが、
人と精の臭いが喉を通っただけだった。
そのまま室を出ようとすると、侍官に止められた。
やんわりと首を振ってふりきると、薄衣を引っ掛けて、外へ出た。
途端に、全身に降り注ぐやわい光に、うっそりと息をつく。
まるで焦がれているようだ。
笑みを洩らすと、不意に優しい記憶が蘇えった。
月の光は、確かに幼い私を突き放すようであったが、
府庫の卓子に顔を埋めて過ごした夜に、頬に差した光は、とても優しかったこと。
きっと、邵可の気配に包まれていたからだろう。
機嫌の良くなった私の足は、自然と府庫へと向かった、
そのときであった。

あの、途方もない悲しみが、胸に込み上げたのだった。
いいや、あのときよりは程度は軽い。
けれども尋常でない痛みには、違いない。
私は胸を押さえたまま、その場に崩れるように、沈み込んだ。
苦しみ、悲しみ、遣る瀬無さ、
それら全てをひっくるめた痛みは、音波のように胸から末端へと広がってゆく。
呻きながら、胸を押さえるとは別の手で、地面を引っ掻く。
爪の間に土や小石が入り込んで、動かす度に、鋭く痛む。
それでも、この苦しみを紛らわせることが出来るなら、とただもう地を引っ掻き回した。
深く掘り下げてゆくうちに、何か硬いものが爪の先に当たった。
がむしゃらにそれを握り込むと、不意に、痛みは止んだ。
嵐のような、いや、むしろ竜巻のような突拍子もない出来事に、
呆けたように座り込んだまま、天を見上げた。
月は相変わらず、冴え冴えと輝いている。
ふと、泥と血に汚れた手をかざすと、
そこにあったのは、土に塗れた、貝殻だった。