07/05/18

気に入った品を、大事に大事にとっている箱がある。
螺鈿細工の小さな箱の中には、細々とした品がごちゃごちゃと積み重なっている。

ある日、その中身をなんとはなしに選り分けていると、
一番底から、おおぶりの巻貝が見つかった。
私の思い出と云うのは、悲しいことにとても乏しいので、
品の一つひとつに纏わる思い出を正確に思い出せる筈なのに、その貝殻だけは見覚えがなかった。
手に入れた経緯すら思い出せない。
しかし、どうにも気にかかる。
指に摘まんで、あちらこちらから眺め回していると、不意に何かが引っかかった。

「兄上だ」

突然に思い出したことよりも、
その名を久しく口にしていなかったことに気づき、ドキリとする。
そう、兄上が下さったものなのだ。